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Elysion~楽園幻想物語組曲~

Elysion~楽園幻想物語組曲~

というわけで感想。なんか考察サイトとか色々あるけど、そういうのはまったく見ないで僕個人の解釈や感想ということで。多々間違っているところがあるかもしれないけど、こういうのは自分がどう感じるかが重要と思うわけで。
まず、気づくのがジャケットの構成。白と黒のページが交互にあり、それぞれ正位置と逆位置になっている。で、楽園を表すElysionがアルバムのタイトルのはずなのに、曲目を見ると偶数番目に入っている曲名の頭文字(色がついている)をたどるとAbyss、すなわち奈落になる。ジャケットも黒側はタイトルがAbyssになっている。つまり、このアルバムは楽園と奈落の表裏一体がテーマになっている。
白を象徴するエリスという名の少女と、黒を象徴する仮面の男―おそらく少女の父。どうやら少女は生まれつき身体が弱く、仮面の男はどんな手段を使ってでも少女を救おうとするがそれは叶わない。2人だけの楽園を夢描いたが奈落に落ちるといったところか。そして、偶数番目の奈落の歌は、それぞれ楽園(または幸せ)を求めたがそれが叶わなかった者たちの歌で、最後に仮面の男が奈落へ堕ちる仲間を誘うように現れるといったところか。奇数番目は楽園を歌うかというと、それもまた違って、少女と仮面の男自身が主役となる歌かな。ただ、ラフレンツェだけよく分からん。
・エルの楽園[→side:E→]
これはストレート。身体が弱い少女は、父から楽園の存在を何度も聞かされている。その楽園では身体が苦しいこともなく二人はずっと一緒に幸せに暮らしていける。だが、少女の前で父は息絶えている。その現実を理解することもできないほどすでに少女の心は壊れているのか。ただ何度も物言わぬ父に楽園のことを尋ねる少女。少女のヴォーカルが子供っぽく歌っているだけに色々とクルものが。悲しい歌。だが、それ故に美しい。メロディーラインとか好み。
・Ark
ファーストアルバムにも入っていた歌なので割愛。箱舟を信じた少女(エルの絵本より)、箱舟に托された願いたち(エルの楽園より)の物語。
・エルの絵本【魔女とラフレンツェ】
正直途中からよく分からなくなった。ラフレンツェは冥界の門を守る存在で(ケルベロス?)そのためには純潔を守らねばならなかったが、孤独の中で出会った青年に恋をして純潔を散らす。ここまではいい。だが、ラフレンツェを憎んでいるのが何者? まったく第三者の女なのだろうか。オルドローズはただ純潔を守れという遺言のためだけの存在なのだろうか。ストーリー的にはオルフェウスの竪琴のそれなんだけど、青年がオルフェウスとは明記されてないし、その神話だと女の名前は確かエウなんちゃらだったはずだし。
・Baroque
完全に語りのみ。他人との「違い」に恐怖する語り手の少女は、1人の少女との出会いで「違い」は「個性」だと前向きに受け止めることができた。ただ、語り手は少女を親友としてだけでなく、恋する相手として見てしまった。その想いを拒絶された語り手は少女を殺してしまう。歪んだ真珠の乙女(エルの絵本より)、歪んだ恋心(エルの楽園より)の物語。
・エルの肖像
少女と父がいなくなった家は廃屋となり、そこに少年が訪れる。その少年もやがて楽園を求め奈落に堕ちてくという暗示だろうか。楽園と奈落の連鎖。途中までは静かな歌だが、最後の方の盛り上がりはなかなか。
・Yield
ファーストアルバムにも入っていた歌なので割愛。収穫を誤った娘(エルの絵本より)、理想の収穫を待ち望む者(エルの楽園より)の物語。
・エルの天秤
曲調がちょっと他のと違う。ややジャズっぽい。モダン風というか。この編曲はかなり好み。ストーリーは身分違いの恋、お嬢様と使用人の恋。仮面の男はおそらく娘の治療費を稼ぐために金が必要だった。そして使用人を殺害し、お嬢様を連れ戻す。自分の楽園のために他人の楽園を奈落へと変える仮面の男。だが、報いは受け、そのお嬢様に刺される。おそらく1曲目の死んだ仮面の男は、ここで致命傷を負い、その状態で娘の下に帰りそこで力尽きたといった感じかな。この仕事で必要な金額に達したんだろう。娘が待つ家の扉こそ彼にとって楽園への始まりだったが、ついに楽園は訪れなかった。
・Sacrifice
器量の悪い姉と、おそらく精神の病で普通の社会生活ができないがとても美しい妹の物語。男たちの欲望、ずるさ、女たちの嫉妬の物語か。妹を犠牲にされた姉(エルの絵本より)、多大な犠牲を盲目的に払う姉(エルの楽園より)の物語。歌としては単純なメロディーラインでちょっと不気味な感じも。
・エルの絵本【笛吹き男とパレード】
楽園を目指し奈落へと堕ちた仮面の男が、自らと同じ境遇の者を引き連れてどこまでも行進をする。その笛の音は魔性の音となり、楽園を願う者を惹きつけ、その者を奈落へと導いていく。「来る者は拒まないが去る者は決して許さない」という仮面の男の台詞が印象的。歌としては、物悲しいメロディーでいて軽快なリズムがミスマッチな悲しい歌。この歌も癖になる。
・StarDust
これは非常に分かりやすい。二股かけられた女が、男を殺す。どこか頭が飛んじゃった女の楽しそうな歌い方がクル。「輝いてる? ねえ、わたし輝いてる?」真っ赤な衣装を身に纏って右手には約束―たぶんこの約束は刃物で、2人を永遠に結びつける約束ということなのだろうか。そして男の白い衣装を真紅に染め、お揃いの色の服になったことを楽しそうに歌う。狂気がよく出ていると思う。星屑に踊らされた女(エルの絵本より)、ついには星屑に手を伸ばした女(エルの楽園より)の物語。編曲がいいし、歌としてもかなり好き。ただ、編曲がKOTOKOっぽい。
・エルの楽園[→side:A→]
楽園にいる少女。だが、その楽園は楽園ではない。少女も薄々気づいている。凄いほんわかとして出だしのメロディー、だが楽園が崩れ奈落が底をあける。
Ark 箱舟に托された願いたちは
Baroque ひずんだ恋心のままに求め合い
Yield 理想の収穫を待ち望みながらも
Sacrifice 多大な犠牲を盲目のうちに払い続け
StarDust ついには星屑にも手を伸ばすだろう
ここのところがかなりキテいる。挟み込まれた四つの楽園に惑わされないようにというのは、ABYSSは2・4・6・8・10番目の歌で、その間に挟まっている3・5・7・9の歌ということだろう。救いのないストーリーだよなー。楽園と奈落を彷徨う罪人たちの物語なわけで。

物語性が非常に強くなったセカンドアルバム。色々解釈ができるから、こういうのが好きな人にはかなりお勧め。