働きすぎの時代

働きすぎの時代 (岩波新書 新赤版 (963))

働きすぎの時代 (岩波新書 新赤版 (963))

○3章
3章では「消費資本主義」について。これは、人々が絶えず拡大する消費欲求を満たすためにも、より多くの収入を得ようとして、より長くよりハードに働く傾向があるということ。それと共にコンビニや宅配便に象徴される、利便性を追及するサービス経済の発展は、情報化の進展とあいまって消費者の需要構造を変化させ、経済活動の二十四時間化をもたらし、働きすぎの新しい要因を作り出している。
『勝者の代償―ニューエコノミーの深淵と未来』にて、「我々が収入のために働くことが、我々を豊かにさせるのであれば、どうして我々の個人的な生活は貧しくなってしまうのか」という問いの答えとして「買い手としての私たちにとって、より良い製品やサービスを求める選択が簡単になればなるほど、売り手としての私たちは消費者をつなぎとめ、顧客を維持し、機会をとらえ、契約を取るために、ますます激しく闘わなければならなくなる。この結果、私たちの生活はますます狂乱状態となる」とある。まさにその通りなんだよなー。
ニュー・エコノミーでは、人々はより利便性を求める。そうした消費行動の変化の結果、労働生活も変わる。コンビニに負けないためにスーパーの営業時間はヘタしたら同じ二十四時間になり、長距離運転トラックは一秒でも早く商品を配送するために超長時間労働をする。そしてついには、今年四月に起きたJR福知山線脱線事故のような、利益を最優先させたために起きる事故も出てきた。トラックの事故だって毎日のように起きているわけで。
○4章
4章では筆者の造語である「フリーター資本主義」について。日本では80年代の初めから、労働分野の規制緩和労働市場の流動化が進められ、若年フリーターだけでなく、中高年も含めて、アルバイト、パート、派遣などの非正規労働者が増加してきた。その結果、雇用形態が多様化するとともに労働時間が二極化している。週三十五時間未満の短時間労働者が増える一方で、絞り込まれた正規労働者のあいだで週六十時間以上働く長時間労働者が増え、三十代の男性を中心に正社員の働きすぎが強まっている。
日本経団連は「仕事の成果が必ずしも労働時間に比例しない働き方が増大している現在では、規制緩和の方向での裁量労働制の大幅な見直しや、一定の限られた労働者以外のホワイトカラーを原則として労働時間規制の適用除外とする制度(ホワイトカラー・エグゼンプション制)の導入など、労働時間の抜本的改正が望まれる」と要求している。これはいわゆるサービス残業を合法化するシステムだ。使用者は残業手当の支払い義務を免除されることになり、大手を振ってただで労働者をこき使えるようになる。これまでの残業手当がなくなる分だけ賃金が少なくなり、今でさえ長い労働時間はさらに長くなることは間違いない。
ILO(国際労働機関)の基礎となっている第一の根本原則は「労働は商品でない」というものだが、市場個人主義者はその意見を退け、今では日本は人材ビジネス、いわゆる派遣業や業務請負業の規制緩和が大幅に進み、労働は商品とされている。ピンハネするだけでえらく儲かるわけだからやめられないわな、そりゃ。これで先進国だから笑える。
企業は正社員を次々と非正規雇用に置き換える動きを進めているから始末に終えない。時給750円のバイトにも責任を持たせる。現場のリーダーにして普通のバイト以上に過重な負担をさせても時給は変わらない。日本の最低賃金はかなり低い上に、物価は世界一高いからますます始末に終えない。あのアマゾンだと、アメリカでは時給1000円超えるけど、日本では850円。非正規雇用者は独立して生活するだけでも非常に苦しい現状。病気になったらそれこそホームレスに転落するのではないだろうか。生活保護はなかなか認められないし。
○5章
5章では労働基準とライフスタイルについて。ヨーロッパと日本の働き方の差を端的に示しているのが年次有給休暇。ヨーロッパでは、法律や労働基準によって年間で20日から30日の有給休暇が付与され、2〜3週間以上の連続休暇を年に二回程度取得するのが一般的。日本では、有職者のうち1年間に2週間以上の連続休暇を取得した者はわずか3.5%。全体の4割は4日以上1週間未満しか取れず、3割は4日以上の連続休暇は一度もない。
30年以上前に発効したILO132号条約では、病欠は年休に含めてはならず、休暇は最低3週間以上、うち最低2週間は連続休暇でなければならないとされている。しかし、日本ではこれに対応する国内法が整備されていないからいまだに批准できないでいる。ILO条約の中で日本が批准しているのは全体の四分の一にすぎず、労働時間に関するILO条約は実に一つも批准していない。
日本では労働基準法ザル法だし、そもそも労働基準法で36条による協定(いわゆるサブロク協定)を結べば週40時間という法定労働時間を無視することができる。つーかもう、暗い話しかないよ。
○終章
で、終章で働きすぎの時代にブレーキをかけるための提言がいくつもされているけど、筆者自身が認めるように「以上の指針や対策は、きわめて当たり前と思われるものも含め、どれをとってもその実行や実現には様々な困難が伴うことが予想される」としている。ただ「しかし、多くの人々が声を上げるようになれば制度は変わり始める。そしていったん問題が煮詰まり制度が変わり始めると、昨日までは困難に思われたことが可能になる条件が生まれてくるものである」とも記している。
そうなんだよね、最初から諦めたらそこでゲームオーバーなわけで。とりあえず、今は衆院選挙で少しでも。比例は共産、選挙区は自民の対抗馬に投票することにするよ。とりあえず、年収700万円未満で自民に投票するのは自分で自分の首を絞めている。とにもかくにも、自分の生活が壊れたら外交とか憲法とか言ってられないし。
とにもかくにも、この本は色々と身につまされる話でした。これから働かなければならない年齢になる人も一度は読んでおくといいです。