縦並び社会

縦並び社会―貧富はこうして作られる

縦並び社会―貧富はこうして作られる

今日のテーマは『第一部 格差の現場から』より、『4 患者になれない』。国民健康保険料を払えなくなって、保険証を取り上げられてかわりに資格証明書を発行された人の話。自治体や前年の収入などによってかなり納める金額が変わるらしいが、一部のみでしか景気回復の恩恵がない昨今。国民健康保険料の負担は重く、当然払えない層も出てくる。そして保険証を取り上げられると、今まで3割負担だったものが全額負担になる。そのため、治療費のことを心配して、どんなに身体が苦しくても医者にかからない、倒れて病院に運ばれても治療を拒否するという例が後をたたない。
資格証明書は1年以上国民保険料を滞納した被保険者に交付されるもので、00年よりから04年にかけて交付された世帯数が3倍以上になったらしい。今ならもっと多いだろうな。自治体間に格差があり、15世帯しか交付していない名古屋市に対し、横浜市は3万世帯超。それでも、資格証明書を発行する対象世帯の一握りにすぎない。
で、この記事に対応するものとして『第二部 読者の声を追って』より、『3 のしかかる保険料』。スーパーの営業部長だった人が自己都合退職をして健康保険から国民健康保険に切り替わったら、年収は下がったのに保険料は増えるということに。年収240万円で保険料が年30万円超。子供が3人いて授業料だけでかなりかかるので、相当苦しいらしい。健康保険だと使用者と被保険者で半々折半なんだよね。そして、金がないから診察を拒んで実際に亡くなった人の話もあった。その人の17歳になる娘は水頭症をわずらっているが、母と同じく資格証明書。本当は成長するごとに脳にたまる髄液を抜く管を取り替えないといけないが、幼児期のままで入れ替えをしていないという。手術の予定も決まっていない。
このテーマにはかなり力を入れていて、次は『第三部 格差の源流に迫る』より『6 命の値段も自由化』。保険業界の強い声で求められているのが「混合診療」の解禁。日本の健康保険制度では原則として、保険診療自由診療を組み合わせた場合は全額自己負担になる。ただでさえ国民健康保険料さえ払えない人が急増しているのに、もし自由診療が広がれば治療を受けられなくなる人が出てきて、日本が誇る国民皆保険制度が崩壊しかねない。しかし、保険業界は「医療費はあと10兆円伸びる余地がある」と、混合診療解禁に向けて強くはたらきかけている。
さらには『第四部 海外の現場から』より『3 患者を苦しめる特許ゲーム』。アメリカの製薬会社の強いはたらきかけで、知的財産権の保護の名のもとに薬の特許が増えつつある。特許を取られると、高額の特許使用料が加算されることによって薬の値段が跳ね上がる。そうなると発展途上国などで薬を買うことができない層が爆発的に増えかねない。
金持ちと貧乏人で受けられる医療に格差が生じるのはある程度は仕方ない。しかし、医者にかかることそのものをためらうような今の状態は明らかに間違っていると思う。もちろん、公平性の問題もある。苦しい家計をやりくりして国民健康保険料を納めているのに、滞納している人でも普通に診療を受けられたら、人間として当然な感情として「それはおかしい」となるだろう。だから政治の方でもっと積極的に、保険料半額免除や全額免除の申請をしてもらうようにはたらきかけるしかないのではなかろうか。あと、免除の基準をもっとゆるくする方がいいと思う。たとえば同じ月20万円の稼ぎでも、扶養家族のあるなし、住にかかる費用などは人によって全然違うし、そこで大きな違いが生まれる。
それにしても、保険業界や製薬会社は、本当に自分たちの利益しか考えていないな。資本主義はそういうものなのだけど、だからこそそうした資本を持つものの暴走をおさえるために政府があるんじゃないか。企業としての社会的責任を果たさない企業には何らかの罰則規定を設けるべきだとも思う。そのかわり、寄付などで免税ができるような制度は作った方がいいかな。
とにもかくにも、読めば読むほど暗くなる内容だ。