日本の、これから 無縁社会

はい、NHKが力を注いでいるキャンペーンです。NHKは、取り上げる社会問題の視点はいいけど、結局問題提起するだけして投げっぱなしにするのがこれまでだったわけだが、今回はどうだろうと思いながら視聴。
結論から先に言うと、この番組は失敗だった。なぜかというと、NHKが「無縁社会」という言葉を使いたい、流行らせたい、という目的が先にあるのが透けて見えるからだ。今回の議論で「無縁社会」に焦点が当てられたかというと、NHKが用意した映像だけで、議論の中心は別にあった。むしろ、無縁社会というキーワードが議論を邪魔している感さえあった。
とはいえ、議論自体は面白いところもあったし、考えさせられるところもあるにはあった。

無縁社会の根底にあるのは、結局は今の不景気なわけ。新自由主義、非正規雇用、貧困な福祉政策、高い失業率(日本の本当の失業率は10%ぐらい。計算が甘すぎるから低く抑えられてる)、見捨てられる低所得者たち。それらの労働問題、雇用問題が原因。これの解決がなければどうにもならない。

番組が用意したゲストで、奥田ってNPOの理事長はいい感じだった。社会福祉のことを考えているし、何より穏やかな口調と、整理された内容。こういう議論の場でああもよどみなく落ち着いて喋ることができるのは凄いね。あの人が喋ると皆聞きいってたし。

ただ、途中まではよかったんだけど、自己有用感という言葉を持ち出してからあやしくなってきた。最後に会社員の永野って人が指摘してたけど、「自己有用感もいいけど、食えないとどうにもならない」がまさに正論。あの人、へらへら笑いながら喋っているからものすごい印象悪いけど、言っている内容自体は正しいと思った。
印象といえば、批評家の宇野って人も、言っている内容は、ネットでつながりを持てる、助けに来てくれる人がいるかもしれないじゃないか、ってのは無茶あると思ったけど、大枠はまともなことを言っていたと思う。でも、この人も喋るときに最初笑うんだよね。
この二人は、口頭の議論が苦手な人の典型だよね。喋り出すきっかけをうまくつかめないから、舌が回るまで笑ってごまかす。本人はいい印象を与えようと思って笑顔になろうと心掛けているんだよね、たぶん。でも、うまくいかないから笑ってごまかす。こういう人って結構多い。こういう議論の場では不利なんだよなあ。

話がそれた。今回の議論で直接的には出なかったけど、金がすべて。結局すべてはそれが原因。だって、今回の議論って、収支働くことに焦点がいってた。なぜなら、日本は社会福祉が貧困で普通の人はワーキング・プアでも生活保護が受けられない。そして、生活保護以外の福祉はないに等しい。つまり、食うのに困っている人がたくさんいる、でも一度労働市場からはじき出されると、もう不安定な職場しかない。さらに現在ではバイトですらすごい高倍率で、働くことすらできないという人もいる。一生懸命仕事を探しても仕事が見つからない。仕事の絶対数が足りないからどうしようもない。

NHKの顔を立てて無縁社会という言葉を使ってみよう。つまり、頼る相手がいない。支える相手もいなければ、支えてくれる相手もいない。
じゃあどうする? どうやって生きる? 稼がないといけない。で、金を得る手段は? 生活保護でもなければ働くしかない。だが、今はその仕事を見つけるのが非常に大変になっている。で、皆大変だから心が荒んでいる。非正規雇用の扱いなんてそりゃあ先進国とは思えないひどいものだ。非正規雇用者も、自分が生きるだけで精いっぱいだと周りに目が向くわけない。で、いとも簡単に孤立化する。
まっとうな仕事があれば、そして労働基準法が守られていれば、縁なんて自然に生まれるよ。
日本の場合、労働を神聖視する傾向が強いから、すべては労働、働くことが基準になっている。そういう仕事の場からはじかれたから、突然無縁になるわけで。

だから、景気と雇用問題をどうにかしないとどうにもならない。
確かに、議論で出てきた「日本は仕事を重視しすぎる」「仕事でしか有用感を満たせないの?」ってのは確かにその通り。でも、結局は仕事をしないと食っていけないし、日本は仕事のウェイトが大きすぎる。休日だってものすごい少ないし、人生で仕事に捧げる時間があまりに多すぎる。
趣味仲間とつながるとかそりゃできたらそうするよ。でも、仲間で会う時間があるかと言ったら、仕事をしてたら難しい。非正規雇用だと時給が低いから、働く時間が不定期かつ変に長くなることもあるしね。
ボランティアだってそう。金得られないじゃん。生きてけないよ。

金だよ、金。露骨な言葉だけど、飾ったって仕方ないからはっきり言う。
金だよ、金。生きていくことができないとどうしようもない。食ってけないとどうしようもない。無縁以前の問題だよ、生きていけなくなるもん。

で、宇野さんの意見の中で、衣食住に関しての福祉とかちらっと出ていた。
これは正しい。生活保護は現金支給までするけど、そうじゃなくて、最低限の衣食住を保証して、あとは働いて何とかしてください、という生活保護手前の福祉政策は絶対必要。
アメリカとかだとフードクーポンだっけ? あれって医者でも使ってる人いるんだよ。まあ、アメリカの場合は医者が貧困者ってことがわりとあるっての事情があるが。訴訟に備えて保険に入らざるをえなくて、その保険がべらぼうに高い。年収3000万円で、2800万円が保険代で消えるとか本で読んで驚いた。あ、細かい数字は忘れたけど、こんな感じの極端な数字だったのは確か。だから、食事はフードクーポンに頼ると。極端な例ではあるだろうが。

でさ、この意見が出たときに奥谷さんがさえぎるように自分の意見を被せたのが印象的だった。そりゃそうだよね、そんな福祉政策ができたら自分の商売あがったりだもん。
奥谷さんは、自分の印象が悪いことを知っていて、相手の話に対してとにかく頷いていたのが印象的だった。少しでもよく見せようとしているのかな? 以前よりかは言い方きつくなかったし。でもま、相変わらず最悪な御仁だが。

やっぱりね、政府が巨大な公共事業を打ち建てるとかして無理に雇用を創設するしかないと思うよ。
なんか公共事情=悪とみなされがちだけど、天下りとか一部の役人が悪なだけで、公共事業自体は必要悪。
あとは、生活保護手前の福祉政策、誰でも気軽に使えるような、世間様に恥ずかしくない! というような福祉政策を急いで作る必要がある。

だって、本当に今の世の中余裕ない。電車乗っていても、年々ギスギスしてきているのが分かる。
本当、嫌な世の中だよ。自分に余裕がないから、他人に対する気遣いもなかなか起こりづらい。そりゃそうだよ、自分がものすごくきついと、他へ目を配る余裕なんてないよ。

僕が望むのは、NHKは無縁社会とかいうのを無理に流行らせようとするのではなく、広く浅い福祉政策についてもっと皆で議論できるような場を用意してほしい。

最近一部の極端な怠惰生活保護受給者を取り上げているマスコミが多くて、きな臭いしね。生活保護が削られると、あれが基準になっているから全ての福祉政策が弱くなる。本当に、日本人がどんどん死んでいくんじゃないかな。治安もどんどん悪くなるだろうし。

だから、もう一度言う。
生活保護手前の福祉政策を作ることが急務。無縁とか以前に、食っていける社会、生きていける社会を作ることが急務。